ダーク&ノイズ
骨が鈍い音を立て、鼻をつぶされた裕子の顔に赤い血のりがこびりつく。その血に酔ったかのように悠美は殴り続けた。

やがて真っ赤になった携帯を二つに折って投げ捨てると、改めて口を開いた。


「ねえ、琢己とヤったの?」


恐怖と痛みで涙を流す裕子は、それでも必死に訴える。

「ヤってないよ」

「ヤったんだろ!」

金切り声を上げた悠美は、裕子の長い髪の毛を掴んで振り回すと、体を押さえつけている希里らを見回す。

そして思いついたように言った。


「ねえ、こいつさ、髪の毛長すぎない?」


残虐な行為に目を背けてきた悠美が、初めて喜色をその目に浮かべていた。

その意は、その場にいる全員に正確に伝わった。のぞみが口端を吊り上げてライターを取り出した。


「じゃあさ、焼いちゃおうよ」


そして裕子の目の前にかざしたライターに火をつけると、鼻を焦がすように目の前で炎を揺らした。

恐怖が裕子の本能からの声を上げさせた。


「やめてえー!」

「口押さえろ!」

「黙れって言ってんだよ、コイツ!」


腹部を襲った激痛に体をくの字に曲げて地面に突っ伏す裕子。正面の希里が蹴り上げた足を誇らしげに掲げ、笑みを浮かべている。

裕子のか弱い体は、容赦なく上から押さえつけられた。


「可愛い頭にしてやるからよ」

「お願い……やめて」


懇願する声と同時に、裕子の頭を鋭い熱が走る。

本気でやると理解した瞬間、裕子の叫びが喉をついた。

その頭を誰かが踏みつけると、叫んでいた口が砂を噛む。あたりを満たす異臭、そして残酷に焼ける音──


「いやああー!」



血と砂にまみれた口で、裕子はくぐもった叫び声を上げた。

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