ダーク&ノイズ
心が深淵に沈んでいる。



学校で植えつけられた恐怖と怒りが頭から離れない。

木下裕子はテレビを観ていたが、その内容はまったく頭に入ってこなかった。

夏にもかかわらず、深く被ったニット帽。顔は青黒く腫れあがり、とても人前に出られる状態ではない。

エアコンを消しているにも関わらず、リビングは冷えた空気に満たされているようだ。

膝を抱え、ソファーにうずくまり、闇に沈んだ心をそのままに放置していた。



何もかもを拒絶しようとする心を邪魔するかのように、そのとき、玄関のチャイムが鳴った。


出たくないとか、嫌だとか、そんなことさえ考えられない。

ただ、その音をなんの感情もなく聞いていた。


が、ずいぶんとしつこく鳴っている。


さすがに嫌悪感が芽生えてきたが、それでもそのうち諦めるだろうと放っておいた。

それからも数回鳴らされたが、さすがに帰ったようだ。



再び訪れた自分だけの世界。



だがそこに、テレビに向けていた視界の端から、なにか動くものが侵入してきた。


恐怖心だけは強烈に胸に刻み込まれている。

痙攣したように体が震えた。


(だれ!)


レースのカーテンの向こう、庭先に現れたのは男の人影だった。

固く握り合わせた両手が震え、歯が小刻みに音をたてる。

身をすくませる裕子をあざ笑うかのように、その人影は窓に顔を近づけ、カーテンの隙間から中を覗いてきた。


わずかに見えた目と視線が合う。

すると、その下に覗いた口が白い歯を見せた。
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