ダーク&ノイズ
待ち構えていた玄関から慌てて庭の裏へ回ると、裕子が塀を乗り越えて隣の庭へ逃げようとしている。

「逃がすかよ!」

真知子はそうひと声ほえると、まだぶら下がっている足をつかんだ。

「助けてーっ!」

裕子も絶叫をあげた。その声は近所に響き渡るほどの大きさで、その音量に男たちはたじろいだ。

「おい、やべえって!」

逃げなければ確実に警察に知られるところとなる。


男たちは裕子を引きずりおろそうとする真知子の手を抑えたが、

「こいつを殺さなきゃ、あたしが死ぬの!」

そう言って手を振りほどき、なおもその手に力をこめた。


意味不明の言葉と狂気に満ちた真知子の顔。

それは正樹たちの高揚を一気に冷ました。

「なんかキメてんのか?」

「とにかくやばいって」

「逃げるぞ」

真知子の彼氏であるはずの正樹が、真っ先にその場から駆け出した。

五人の男らはその足を門扉の前で止めた。目の前に乗り付けられる数台のパトカーに遮られたからだ。

「お前ら、そこを動くな!」

一斉にパトカーから飛び出す警官のなかに混じった進藤が声をあげた。

男たちは算を乱してちりぢりに逃走を始めると、さすがに真知子も血相を変えて裕子の足を離した。

が、それでも諦めていないのか、逃げ惑う男らを尻目に塀に足をかけて登り、裕子を追ってゆく。


乗り越えた隣家の庭先に、真知子に顔を向けた裕子がいた。

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