ダーク&ノイズ
前を走る裕子の姿が徐々に近づいている。

真知子の頭は、もはや裕子が呪いの犯人だという思考で占められていた。


もちろんあながち間違いではない。


ついに、裕子のTシャツの襟に手がかかると、真知子は一気にひきよせて道路に引き倒した。

息が上がって声も出せない裕子の上に馬乗りになった真知子は、勝ち誇ったように笑みを浮かべた。

「はは……あたしの……勝ちね」

真知子の手がブレザーのポケットを探ると、鈍く光るバタフライナイフが顔を見せた。

「お前が……悪いんだからな」

殺人行為の責任転嫁を、こんなときにでもするのかと、裕子はその心理状況を笑った。


死が怖くないというわけでもない。


が、一種投げやりな心境の裕子は、哀れなほど死に怯えている真知子がおかしくてたまらなくなったのだ。

「言っとくけどね……あたしじゃ……ないよ。……アンタらに……呪いをかけたのは」

笑いながらそんな言葉を吐く裕子に、真知子は言いようの無い不安を感じた。

「あたしは……知ってる。殺したら……アンタはわからない」

そう言った裕子は、たまらないというように、絶え絶えの笑い声をあげた。


真知子はこのとき狼狽を隠さなかった。

「誰だよ、教えろ!」

ナイフの切っ先が、裕子の右目の直前に据えられた。だが、裕子にひるむ様子はみられない。


心理的には優劣が逆転したと言ってもよい。

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