ダーク&ノイズ
「ナメてると殺すぞ」

真知子は最大限のおどしをかけたが、それも今の裕子にとっては強がりにしか見えなかった。

「だから……殺したらアンタ……死ぬよ」

言葉を失った真知子の荒い息だけが、閑静な住宅街に響いている。


遠くで警官の叫び声が聞こえていた。まだ全員が捕まったわけではないようだ。


「ハッタリだろ」


唾を飲み込みながら、しぼりだすように真知子は吐き捨てた。


「確かめてみれば?」


笑いをおさめた裕子は、今まで見せたことのない据わった目で、真知子を睨んだ。

(こいつ!)


半分以上、裕子の話は本当だと思っている。

しかし、いままで虐げていた人間に見下される屈辱に耐えられなかったのも事実だ。

このとき、極限の葛藤で真知子の思考回路は吹き飛んだ。


ナイフを両手で握りなおすと、そのまま振りかぶる。


裕子はこのとき死を覚悟したが、目の前の憎い女も死ぬと思えばそれほど無念も残らなかった。


逆光で黒ずんだ真知子の体を最後に見ていたくない。


と、裕子は目を閉じた。

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