ダーク&ノイズ
が、自分に突き刺さるはずの狂刃がなかなか振り下ろされない。


不審に思った裕子は、恐る恐るまぶたを開いた。

そこに見えたのは、目を見開いて何かに怯える真知子の姿だった。


力を無くした下半身は、裕子の脱出を易々と許したが、それを気にする様子すらない。

(これって、もしかして?)

ナイフを取り落とした真知子は、耳をふさぐと、焦点の合わない目であたりをしきりに見渡している。

「いやあ、許して!」

そう叫ぶと、真知子は地面に突っ伏して頭を抱えた。

信じられないという目でそれを眺めていた裕子は、やがてそれが呪いのせいであると確信すると、立ち上がって見下した。


(ざまあみろ!)


呪いに対する恐怖すらわいてこない。

これほど浮き立つ気持ちは、久しく感じたことがなかった。

「あらら、アンタこのまま死ぬんだね」

裕子は笑いながら、残酷な言葉を容赦なく投げかける。

「怖い? ねえ、怖い?」

あとはどうやって死ぬのかを想像すると、興奮に打ち震える自分の両腕を抱きしめた。


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