ダーク&ノイズ
と、突然真知子の丸まった体から足が伸びた。というより、裕子には強引に引っ張られたように見えた。

その足のほうへとっさに目を向けた真知子は、これ以上開かないというほど目を見開き、そして空気を切り裂く叫びをあげた。


(なに、これ……)


その恐怖は、見るものにも伝染した。


裕子の血相が変わる。


目の前で起こっている壮絶な状況は、裕子の想像をはるかに超えたものだった。


(怖……い……)


とんでもないものに手を出してしまったのではないかと、初めてその恐怖にぬりつぶされた。

真知子は確実にこの世からいなくなる。


この惨状を見てそう思わない者はいないだろう。せり上がってくる恐怖に、もう耐えられない。



「いやあー!」



裕子が叫ぶのと、真知子が断末魔の声をあげるのは、ほとんど同時だった。




「こっちだ!」

警察官と進藤は、二度三度と聞こえた叫び声を頼りに入り組んだ道を急ぐ。

(最悪の状況か──)

ここまできて助けられなかったとしたら、それは進藤の責任だ。


願いを込めて目の前の角を曲がったが、そこには一本のナイフが残されているだけだった。

足を止めた進藤がそれを拾い上げる。

「先、追いかけて!」

警察隊を促すと、進藤はそれをビニール袋に納め、また駆け出した。



しかし、これだけ追いかけたにも関わらず、結局真知子も裕子も見つけ出すことはできなかった。

息を切らした進藤は、その報告を恐る恐る川田にあげるしかなかった。


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