ダーク&ノイズ
進藤は走った。それでも犯人の姿はつかまらない。そしてついに登山口まで降りてきた。


息を荒くして、街へと続く暗い道を見据えた。


(こっちじゃないのか?)


息が整うのも待たずに、再び山道を引き返す。

もう足があがらなかった。

重い足を引きずるようにして登りながら、進藤は携帯を開く。川田のほうはどうだったのだろうか?

汗が携帯電話をベタベタと頬にくっつける。呼び出しながら、ディスプレイをぬらす汗を何度か拭った。

(おかしいな)

拭いながら、呼び出し画面がなかなか通話画面にかわらないことに不審を覚える。

もしかしたら、いま犯人を取り押さえている最中かもしれない。

(とにかく急がないと)

いったん電話を切ると、少しだけ脚勢を強めた。




棒のようになった足が、ようやく神社の境内の土を踏んだ。

「川田さん」

と、呼びたかったが、破裂しそうな肺がそれをおしとどめる。

(どこだ?)

見渡すかぎり、ひとの姿は見えない。どころか、枝が鳴る音ひとつしない。騒いでいるはずの虫の声すらいまは静まり返っている。

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