ダーク&ノイズ
なんで自分が自分に暴力を働かれているのか、その意味が分からない。

「ねえ、こいつさ、髪の毛長すぎない?」

残酷に見下ろす悠美が、笑いながらそう言った。


(このセリフ──)


この先の展開を悠美は知っている。

「じゃあさ、焼いちゃおうよ」

のぞみがライターを目の前にかざすと、そのスイッチを入れた。

「やめてえ!」

そう叫んだ声も聞いたことがある。あのときの木下裕子が、こうして叫んでいたはずだ。


押さえつけられた頭。


その髪の毛の隙間に、冷たい感触が流れ込んで頭皮を濡らした。


(なに、これ?)

とろりとした液体が頬を伝う。

その瞬間、これが油であることを悟った。

(冗談──!)

「いや、いや、やめて!」

この状態で火をつけられたら──と、考えるまでもない。


生命の危機を感じて、渾身の力を振り絞ってもがいてみせた。

が、凶悪な手から逃れることは出来ない。


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