ダーク&ノイズ
しかし、悠美には周囲の変化を気に留めるよゆうなどまったく無い。


おぼつかない足取りが、急に宙に浮いた。

続いて冷たい水が全身を覆い、口と鼻から大量の水が流れ込んでくる。

近くに池があったのだ。

そこに悠美は思いがけず飛び込んでいた。


(助かった)


緑色の水底を眺めながらそう思った。

激痛が冷やされて、むしろ心地よいほどだ。ひとときの安堵の後、光差す水面に体を浮かせた。

水のしたたる髪の毛を掻き揚げた手が、がさりという感触とともに大量の髪の毛を抜いた。

呆然とする悠美の目の前に、女たちが駆け寄ってきた。


(誰……なの?)


見慣れない恰好をしている。

時代劇に出てくる村の娘が、こんなみすぼらしい着物をいつも着ている。と、頭を巡らせた。

岸辺に陣取った十数人の娘らは、冷笑を浮かべて悠美をあざ笑った。

「あんた、すごい顔になってんじゃない」
「もう佐吉さんには顔向け出来ないわね」
「化け物みたい」

(佐吉って……誰よ)

娘らの嘲笑を浴びながら考えていたとき、いきなり足をすくわれて水中に没した。

水の中にも仲間がいたのかと、足を掴む者に目を向けた瞬間、悠美は目を見開いた。


火傷を負った、ただれた手が足首を掴んでいる。


その先には、目にしたことのない異形の顔があった。



髪の毛が焼けた皮膚に張り付いている。ただれた皮膚がまぶたをゆがませ、唇は半分くっついていた。


(お凛!)


とっさにその女を見て、悠美はそう思った。
< 145 / 250 >

この作品をシェア

pagetop