ダーク&ノイズ
宇野は腕を組んで、目を閉じた。

川田や進藤と違い、彼はこの街の出身だった。したがって、その伝説を知らないわけではない。


(そんなことがあり得るわけはない……が、しかし)


不可解な消え方を証言しているカラオケ店の店員は、血の気を失って、そのときの状況を説明していた。

単なる狂言とはとても思えない。

誰もそれを信じなかったが、宇野はそう感じていた。

(だとすれば川田たちは)

宇野は思いついたように目を開くと、手元の電話を掴んで内線をダイヤルした。そして部下をつかまえると

「水沢神社を調べろ。川田と進藤の足取りがつかめるかもしれん。あ、それからな、これは極秘だ。マスコミには絶対知らせるんじゃないぞ」

と、早口に捜査を命じた。



その勘は見事に当たった。

登山口で川田らの覆面パトカーが見つかったという報告が、すぐさま入ってきたのだ。

「手がかりを捜査しろ。それと、応援をやるから、神社の入り口を封鎖するんだ」

次々と指示を出しながら、宇野はその伝説が真実になるかも知れないということに冷や汗をとめることができない。

(そんな馬鹿なことがあるわけ)

その考えを頭から否定するのが警察の仕事だ。


頭を振って妄想を振り切ろうとした。


その宇野がふと視線を目の前にもどすと、そこには魂の抜けたような沙理奈の顔があった。

「どうした?」

肩をすくませ、目をむいた沙理奈は椅子からすべり落ちて床に腰をうちつけた。

< 158 / 250 >

この作品をシェア

pagetop