ダーク&ノイズ
呪った人間を殺せば助かるという反呪法など存在しない。が、古来から残る強力な霊障が、殺人をあおるデマに絶大な威力をもたせていた。

呪いに縛られた人間の疑心暗鬼というのは、常識で考える思考とは大きく異なる。

禁忌への引き金が、どれほど軽くなるかを巧妙に計算したものだといえた。


「もう大丈夫です。行きます」

ベッドから半身を起こした悠美は力強く訴えた。

「馬鹿いうな、昨日の今日だぞ」

琢己は華奢な体を押し戻そうとした。

「いや、君が行けるというのなら、すぐにでも行こう」

佐々木はそう言うと、悠美に着替えをうながして、ベッドのカーテンを引いた。


(信じられんことだが……)


病室の窓から街を見下ろすと、そこかしこに悪霊が這い出してきているのが見える。

まるでウイルスのように爆発的なひろがりを見せようとしているのか。


(このままでは、人の魂を食らい尽くすまでとまらなくなる)


それは呪いを超えて、無差別な霊障を招くことを示唆したものだった。




水沢神社へ向かっていたふたりの警官は、荒廃しきった境内へと足を踏み入れた。

「なんだか気味が悪いですね」

まだ若い横井は、巡査長である福田にそういった。

福田はなにも答えない。

宇野と同じようにこの街で生まれ育った彼にとって、この神社を捜索するということがどういうことか、何となく察しはついていたからだ。

子供心に植えつけられた恐怖が、すっと胸に忍び込んできて、背筋を寒くさせる。


(あれは本当だったのか?)


福田の足は、まっすぐに神木へと向いた。

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