ダーク&ノイズ
その忙しいなか、再び顔を見せたのは宇野だった。

警察からの情報より、さらに輝く情報を手に入れたのだ。相手をしている暇も惜しいと思っていた。

「すいません、ちょっと忙しいんですよ」

ついと顔を向けた星野は、すぐに興味なさげにキーを打ち込む作業を再開した。

「頼むから聞いてくれ」

「放送禁止って話ならお断りしたはずですけども」

「その、呪いの解き方ってところだ」

「呪いを解くためには、呪った人間を殺すってことですか?」

「そうだ。それを放送しないで欲しい」

そこまで聞いて、星野はようやくキーを叩く指を止めた。

「ウチらは視聴率をあげないとメシの食い上げなんです。わかります?」

「ああ」

「いいですか。この事件の背景を放送する。そして自分が呪われてる事実を知った市民や、これからそんな事態になるかも知れないと不安になった市民がテレビに注目するとします」

宇野は、星野が言わんとしていることが想像できる。

それでも弱みを握られている立場から、その話を黙って聞いていた。

「そこで、ウチが呪いを解く方法を教えますって放送したらどうなると思います?」

「視聴率がぐっと上がるってわけだな」

「そう、それも10%単位で跳ね上がりますよ」

その状況を想像したのだろうか、星野の顔が笑いでゆがんだ。

「それでまた殺人の連鎖が起こるんだぞ」

「ちょっと待ってくださいよ。例えばひとりの人間が10人を呪ったとします。その呪った人間を殺せば10人は助かるんですよ。正当防衛で、しかも失う人命だって10対1だ。むしろ我々は多くの人命救助を行うことになるんですよ」

「それは詭弁だ!」

「違いますね。正論です」

「殺人ほう助だぞ」

「そこまで言われちゃ、こっちも引けませんね!」


星野は再びキーを叩き出すと、それからは宇野の言葉に耳を貸そうとしなかった。

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