ダーク&ノイズ
夕食の買い物をしていた主婦は、八百屋の主人が対応してくれないことに苛立って声をあげていた。

「ちょっと、ほうれん草。勝手に持ってくわよ」

それでも主人は対応に出てこない。主婦に目をやると、だまって店内に備え付けてあるテレビを指差した。

「テレビなんか観ながら仕事してないでさあ……」

言葉を続けようとした主婦の口が、開いたまま言葉をなくしていた。

「これ、この街じゃないの?」


また、大型電気店のテレビコーナーでは、通り過ぎようとした客が次々と足をとめて、画面を注視していた。


閑静な住宅街では、庭仕事をしていた夫を呼ぶ妻の声が上がっている。


病院の待合室では、呼び出しされてもなかなか腰をあげない患者が続出した。



神社を目指して街を歩いていた佐々木たちは、街の様相に微妙な違和感が起きたことを感じ取っていた。

信号待ちをしている車が、青に変わっても動き出そうともしない。

恭一がふと運転手を見ると、食い入るように車内のテレビに見入っていた。

「なんかあったんですかね」

そして何気なく携帯を取り出すと、テレビのスイッチを入れた。

チャンネルボタンを押しながら、矢継ぎ早に番組を切り替えてゆくと、あるニュース番組の中継の画面が映し出された。
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