ダーク&ノイズ
(え?)


女のようだ。

ニット帽に白いマスクをしていたように見えた。


その人物の服装が、この暑い季節に似つかわしくなかったのが原因だとわかると、目線を動かして再度確認しようとした。

道路に目を向けたとき、ちょうど目の前をバスが横切った。それを通り過ぎるのを待っている間は、ほんの数秒もないだろう。

しかし

(あれ?)

すでに、女の姿は琢己の視界からは消えていた。


「おい、何してんだ」

その場に立ち尽くしている琢己に、恭一が声をかけた。

「ああ……いや、何でもない」



あわてて後を追う琢己は、それでも妙に引っかかる女の姿が、脳裏から離れなかった。



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