ダーク＆ノイズ
「車を止めろ！」

とっさに叫んだ宇野は、車が止まりきるのも待たずに車外に飛び出し、荒々しく後部ドアを開け放す。

隣の女生徒を車外に放り出すと、助手席シートの下から少女の顔だけが飛び出していた。


（そんな馬鹿な！）


助けようとした手を、本能が止めた。

あまりに危険すぎる気配は、警察官としての義務感にさえ二の足を踏ませたと言っていい。


絶叫する少女の顔が、どうみても数センチしかない空間にもぐりこんでゆく。


（そんな……）


数々の事件を目の当たりにしてきた宇野でさえ、その場を動くことができなかった。

そして、少女はついに姿を消し、絶叫は糸が切れたように途絶えた。


すぐに助手席の下を確認すべきだろう。それは分かっている。

それでも宇野はそこを覗き込むことが出来なかった。




その時、街中に絶叫が走ったと言ってもよい。


住宅街で、学校で、職場で、それらは一斉に起こった。

今朝から幾度も視力を失くし、幻聴を聞いたその意味を、呪いをかけられた数百人が理解したのだ。

そして再度、闇と音に襲われた人間たちの目つきが、瞬間──




殺人鬼のそれに変わった。


（呪ったのは誰だ！）


それぞれの頭に、自分を呪った人間の像が瞬時に浮かぶ。

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表紙・目次

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