ダーク&ノイズ
不条理な事だと気づくと、意識にわずかな変化が起きた。

(そうよ、悪いのはあいつらじゃない)

次にこみ上げてきた感情は怒りだった。

自分が何をしたわけでもない。

奴らの気分に振り回されて人生を台無しにするなんて、許せるものではなかった。

(殺せるものなら……)

実際に殺すなどと穏やかならぬ気持ちではないが、ようは消えてもらえば良いのだ。

だが、そんなことが出来るわけは無い。

世の中そんなに自分に都合の良いようには動いてないのだ。それが出来るのは空想の世界だけだ。


その時、ある事柄が悠美の記憶をよぎった。



(お凛──)



それは唐突に頭に浮かんだ名前。

しかし昔からこの地域に住んでいる人間であれば、誰でも知っている名前だった。


『お凛に連れていかれるぞ──』


それは泣き止まない子供を黙らせてきた恐怖の呪文だ。


悠美はそれを思い出すとしばらく考え込んでいたが、何かに取り憑かれたようにベッドから跳ね起きると机に向かった。


ノートを小さく裂いて紙切れを幾つか作る。そしてそれぞれにサインペンで名前を書き込んでゆく。

(それから何だっけ?)

藁だ。
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