ダーク&ノイズ
人形を作るための藁が居る。
しかしそんなものが現代社会にどこにでも転がっているわけは無い。
部屋を見渡してもあるはずはなかったが、代わりになりそうなものに目をつけると、それを取り上げた。
日曜大工が趣味の父親に感謝しながら庭の小さなコンテナの中からさらに必要なものを取り出す。
そうして悠美がこっそりと家を飛び出した頃は、すでに午前1時を過ぎていた。
闇夜にひたひたと足音を響かせながら一路、黒い空に更に濃い稜線を浮かべている山へと向かう。
閑静な住宅街が途切れる場所にその山はあった。
休日になれば気軽なハイキングコースとして知られている。
いつも明るい雰囲気で眺めていたその山は、いまは頑として人を拒む気配すら見せていた。
住宅がまばらになり、やがて畑が周りを囲んだ。
段々と街灯が少なくなってゆく一本道に入ると、そこで初めて恐怖が足元から這い上がってくるのを感じて足を止めた。
持ってきた懐中電灯に初めてスイッチを入れたが、道の先を照らしても光はどこにも届かない。
振り返ると、いつの間にか来た道は暗い闇に覆われている。前に向き直ると、さらに暗い、というより黒い闇がどんよりと口を上げていた。
唾を飲み込むと、収縮した喉にじっとりと汗ばんだ感触がある。
悠美はそこで動けなくなっていた。
『昔むかし……ここにお凛という娘が住んでおった……』
そこから始まるこの地方に伝わる伝説。祖母の声に乗せて、その物語を反芻していた。
しかしそんなものが現代社会にどこにでも転がっているわけは無い。
部屋を見渡してもあるはずはなかったが、代わりになりそうなものに目をつけると、それを取り上げた。
日曜大工が趣味の父親に感謝しながら庭の小さなコンテナの中からさらに必要なものを取り出す。
そうして悠美がこっそりと家を飛び出した頃は、すでに午前1時を過ぎていた。
闇夜にひたひたと足音を響かせながら一路、黒い空に更に濃い稜線を浮かべている山へと向かう。
閑静な住宅街が途切れる場所にその山はあった。
休日になれば気軽なハイキングコースとして知られている。
いつも明るい雰囲気で眺めていたその山は、いまは頑として人を拒む気配すら見せていた。
住宅がまばらになり、やがて畑が周りを囲んだ。
段々と街灯が少なくなってゆく一本道に入ると、そこで初めて恐怖が足元から這い上がってくるのを感じて足を止めた。
持ってきた懐中電灯に初めてスイッチを入れたが、道の先を照らしても光はどこにも届かない。
振り返ると、いつの間にか来た道は暗い闇に覆われている。前に向き直ると、さらに暗い、というより黒い闇がどんよりと口を上げていた。
唾を飲み込むと、収縮した喉にじっとりと汗ばんだ感触がある。
悠美はそこで動けなくなっていた。
『昔むかし……ここにお凛という娘が住んでおった……』
そこから始まるこの地方に伝わる伝説。祖母の声に乗せて、その物語を反芻していた。