ダーク&ノイズ
全員の背筋に冷たいものが走る。内田と宇野は目をこらして、その影を睨んだ。

恐怖を紛らわせるために、拳銃ホルダーに手を差し込む捜査員もいる。


「おい、誰だ」


再び声をかけた先の影が、うっすらと月あかりに照らされた。


「あやしい者ではありません」


その影は四人の男女のものだった。

佐々木を先頭に、細い山道を登ってきている。


内田は肩の力を抜きながら、佐々木に近寄っていった。


「ここは立ち入り禁止だ。下でも検問をしていたはずだが」

「私は霊能者です。いま起こっている呪いをとめるために来ました」


佐々木はなんの気負いもなく、そう言った。


「誰の許可を得ている」

「誰も」

「じゃあ出て行くんだ」

「そうもいきません。これ以上の呪いの暴走は、この世の理に影響します」

「意味が分からんな。とにかく出て行け」


内田の声を受けて、屈強そうな捜査員が前に出る。


「仕方ないですね。君たち──」


佐々木は振り向いて、悠美たちに合図した。

三人が耳をふさいだ直後、佐々木の口元がとがる。そして、嘯が吹かれた。


嘯(しょう)とは、霊魂を呼び寄せたり祓ったりする、口笛に似た発声法だ。それを生きた人間に吹けば、瞬間的に魂を肉体から離すことができる。


もちろん力の加減を間違えば、その魂は戻ってこれなくなるほどの威力を持っている。

古代中国で発生した秘儀だが、もちろん現代に伝えるものはいない。



いや、ただひとり、佐々木を除いては。


瞬間、内田の意識が飛んだ。

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