ダーク&ノイズ
「……弟子佐々木亮、諸神に許しを請うなり」


聖域に無断で入るわけにはいかない。

これはいわば挨拶というべきものだった。


「先に神木に許しを得なければならない。私が呼ぶまで、君たちはここに居てくれ」

そう言って立ち上がった佐々木は、よろよろと境内に足を運んでゆく。


「恭一、佐々木さん大丈夫か?」

そのおぼつかない足取りを見て、琢己が不安をもらした。

「あれは禹歩(うほ)ってやつだ。古代中国の聖帝の足取りを真似て、鬼神に敬虔さを訴える」

恭一なりに知っている中国符術の知識だった。

道教思想によればそのような解釈だが、さらに踏み込めば、禹歩とは古代中国の天帝が、帝位を受けた禹に授けたといわれる技で、そこに呪文をまじえることによって、自身の霊力を飛躍的に高めることができる。

「吾以日洗身・以月錬真・仙人輔我・日月佐形・二十八宿・與吾合并・千邪萬穢・逐水而清……」

両手を合わせ、人差し指で地を指しながら、佐々木は神木へゆるゆると近づいてゆく。


神木から2メートルほどまで近づくと、そこで再び地に膝をついた。


懐から小さな香炉を取り出す。本来なら大きな壇を作りたいところだが、この状況ではそうも言ってられない。

そこに符を入れ、火を焚いたのち、線香を立てた。


佐々木の頭が地につくほど下がる。

そして意識を集中させると、静かに魂を体から離した。

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