ダーク&ノイズ
これから神木の怒りを鎮めるのだが、時間がない。本来なら長い儀式で礼を尽くし、その怒りを鎮めなければならないところを、佐々木は直接魂での接触を試みていた。


神界に近い精神領域に、佐々木の魂はあった。

光に満ちた世界だ。

しかしその光は決して優しいものではない。佐々木自身の形は成していないが、意識を集中していなければ存在自体が精神エネルギーの渦に飲み込まれてしまう。

そして、それは二度と魂がこの世に帰れないことを意味した。


(見つけたぞ)


ついに佐々木は神木に宿った霊と接触した。

しかし、その色は赤く燃えさかり、波動はひどく邪悪なものを含んでいる。

(怒りが強すぎる)

こんな怒りを鎮めるのは、並大抵のことでは無理だろう。さすがに二の足を踏んだが、思い直して踏ん張った。

(畏怖するのは間違いではない)

高等な霊は傲慢をとくに嫌う。むしろ畏れなければならない。

「弟子佐々木亮、この神木に宿る神に問う。この世あらざる存在が、この世に害をなす。この仕業はいかなことでしょう」

次の瞬間、怒りの波動が佐々木を打った。

まともに受けてはひとたまりもない。意識のなかで素早く印を結んだ。

「吾奉太上仙師・九天玄女娘娘・北斗星君以及諸天神聖・賜吾一指降魔剣指・點天天清・點地地霊・點神神顕聖・點人人長生・點符符好用」

呪文によってその波動を受け流すと、


『佐々木とやら、ただの人間とは思えぬ……我の施しを忘れ、我をないがしろにし、我を汚し、我に害をなした。人のその仕業はなにゆえか』


という問いが発せられた。


ここで初めて、神霊が交渉を許したといえる。

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