ダーク&ノイズ
「不肖、佐々木が申します。寛容なる御心をもってお聞きいただきますよう、伏してお願い申し上げます……」



長く静かな時間が流れてゆく。


悠美は祈るような気持ちでそれを見ていた。恭一はしきりに下から警官が上がってくるのではと警戒し、琢己は早く佐々木の声がかかるのを待っている。


何もしていないように見えて、佐々木自身は、それこそ命を削ってことにあたっている。常人の魂では、触れた瞬間に消失してしまうほど圧倒的な精神エネルギーとの交渉だ。

たとえ交渉できたとしても、それを許すかどうかは佐々木の人格にかかっている。

いままで人間が犯してきた罪を許してもらわなければ、この神木は鎮められないのだ。



が、佐々木はそれをやってのけた。



体内に魂を戻すと、大きく息を吸った。


(きわどかった)


佐々木でなければ、まず成功しなかっただろう。その前に、交渉すること自体、無理だと言えた。


「いいぞ、こっちに来てくれ」


その声を聞いて、三人はようやく胸を撫で下ろす。

恭一が時計を確認すると、すでに20分が経過していた。

(ずいぶんかかったな)

佐々木にしてはかなり長い除霊だ。何度か除霊の現場に居合わせた恭一は、その事実に冷や汗をかいた。

さすがに一筋縄ではいかなかったと言うことだ。

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