ダーク＆ノイズ
佐々木は両手を結び、人差し指を伸ばした剣訣という形をつくる。

ふわりと衣服がふくらんだように見えたのは、体内に気がこめられたせいだ。

「乾元蔭覆・天運無偏・造化発育・萬物滋焉・東西南北・住意安然・雲行雨施──」

そして呪文を唱えると、希里らの苦悶は数倍した。


「ああ……苦しい……」
「なんで……あたしが」
「あんたは何で……のうのうと生きてる」


次第に苦悩の声が絶叫にかわる。

それは悠美にとっても苦痛を伴う痛みとなった。耳もとの絶叫が、胸の奥をしぼりあげるのだ。


悠美の閉じたまぶたから涙があふれ出た。

そして、その口から


「ごめん……ね」


おさえきれなくなった言葉も──



悠美の声とともに結界が破れた。

（しまった！）

佐々木は唇を噛む。これで亡者は、悠美の魂をいたぶり、この世から連れ去ることができる。


琢己もその声を聞いて目を開いた。

斜め前に座る悠美の周りに、亡者が群がっている。それは希里らのものだったが、もはや華やかな女子高生ではない。

口を裂き、目を剥いた顔のどこにも生気は見られなかった。

憎悪を凝縮させたような、醜い悪霊だ。


とっさに佐々木に目をやると、手のひらで琢己を制している。

まだ動くなという合図だ。

胸の内が不安で張り裂けそうだった。

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