ダーク&ノイズ
頼みの佐々木は倒れてしまった。まったくなす術が見当たらないことが、三人の恐怖を増大させる。

お凛のゆがんだ唇が、ひきつるように動くと、

「佐吉さん……ようやく会えたのね」

と、琢己に話しかけた。


その名前を聞いた悠美が顔色を変えた。

お凛が出てきた夢のなかで、自分を焼いた娘たちがその名前を言ったはずだ。


(あれは、お凛が体験したことだったんだ)


おぼろげに考えていたことが、確信に変わった。

そう考えれば、佐吉というのは飴売りの青年だということになる。お凛は琢己を見て、佐吉、と言った。


(琢己が……佐吉?)


悠美の頭は混乱した。



いっぽう、地面に伏せたままの佐々木は、薄れゆく意識のなかでお凛の記憶をたどっていた──


「佐吉さん、遅いなあ」

お凛は足元の小石を蹴飛ばすと、だれに言うともなくつぶやいた。


約束の刻はとうに過ぎているはずだ。ひと月前、村の娘たちのいじめに耐えかねたお凛は、それを佐吉に打ち明けた。

それを聞いた佐吉は、お凛にこう言った。

「お凛ちゃん、俺は前からお凛ちゃんを嫁にしたいと思っていたんだ。それならいっそ二人でどこかへ行かねえか?」

もうずっと以前から、お凛は佐吉のことが好きだった。

その申し入れを断る理由などあるはずもない。


顔に花を咲かせたように破顔したお凛は、瞳をうるませて頷いた。

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