ダーク&ノイズ
「とりあえず、ウチのあばら家じゃあお凛ちゃんを連れてこれねえ。すまねえが、金すをいくらか用意できねえかい。ふたりで住める立派なとこを探すからよ」

「それなら……」

お凛の頭に浮かんだものがある。それは亡き母が大切にしていた高価なかんざしだった。


村の人間が持つようなものではない。

それを売れば、相当な金と引き換えに出来るはずだ。

それでも優しかった母の思い出が詰まった形見である。簡単に決断はできなかった。

が、迷ったあげく、それを佐吉に渡した。


(あたしが幸せになれるなら、おっかさんだって)


そう思ってくれるはずだ、と信じてのことだ。


約束を反芻していたお凛の耳に、草木が立てる音が聞こえてきた。

「佐吉さん」

不安を胸から消したお凛は、喜びを全身であらわして、林のほうへと駆け出してゆく。自然とその目は涙であふれた。

しかし、待っていたのは佐吉ではない、村の娘たちだった。

喜びは奈落へと突き落とされた。


そして殴られ、蹴られ、顔を焼かれ、みじめに池に落とされたお凛は、さらなる絶望に見舞われた。

「あんた、すごい顔になってんじゃない」
「もう佐吉さんには顔向け出来ないわね」
「化け物みたい」

口々に罵る娘らを押しのけて、ひとりの娘が前にでた。それは庄屋の娘で、この連中を引き連れている頭目のような娘だ。

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