ダーク&ノイズ
その娘がふところから何かを取り出した。
目に飛び込んできたものは、あの形見のかんざしだ。
誇らしげにそれを見せた村の娘は、沈みゆくお凛に向かってこう言った。
「佐吉さんにもらったのよ。あたしね、来月佐吉さんと結納あげるの。あんたみたいな小便くさい女、最初から相手にされてないのがわからなかったの」
この瞬間、お凛の頭が憎悪で真っ赤に染まった。
(そんな……)
水の底に爪を立て、這うようにして岸に手を伸ばした。
(許さない!)
すでにひと気のなくなった岸に、濡れた体を引きずり上げると、唇が半分ふさがった口をゆがめて吼えた。
「佐吉!」
お凛の記憶のなかの佐吉と琢己は、まるで同一人物といえるほど酷似していた。
その事実をとらえながら、佐々木の意識は途切れかけている。
(谷川さんじゃない、琢己君が……目的だ)
悠美の想念のなかにいる琢己を、お凛は見つけて反応したのだ。それを知らせなければならない。
が、言葉は出なかった。そしてそのまま、意識は暗い闇に沈んでいった。
裕子の体を借りたお凛は、一歩一歩、琢己へと歩み寄っていた。
「佐吉さん……こんなにあなたを憎んでるのに……こんなにも愛おしいの」
ナイフを下ろす様子はない。
琢己は距離をとるように、一歩づつ足を後ろへ運ぶ。
「琢己、逃げろ」
恭一の声は小刻みに震えていた。自分も逃げたいが、ここに佐々木を残していくわけにはいかないという義務感で踏みとどまっている。
目に飛び込んできたものは、あの形見のかんざしだ。
誇らしげにそれを見せた村の娘は、沈みゆくお凛に向かってこう言った。
「佐吉さんにもらったのよ。あたしね、来月佐吉さんと結納あげるの。あんたみたいな小便くさい女、最初から相手にされてないのがわからなかったの」
この瞬間、お凛の頭が憎悪で真っ赤に染まった。
(そんな……)
水の底に爪を立て、這うようにして岸に手を伸ばした。
(許さない!)
すでにひと気のなくなった岸に、濡れた体を引きずり上げると、唇が半分ふさがった口をゆがめて吼えた。
「佐吉!」
お凛の記憶のなかの佐吉と琢己は、まるで同一人物といえるほど酷似していた。
その事実をとらえながら、佐々木の意識は途切れかけている。
(谷川さんじゃない、琢己君が……目的だ)
悠美の想念のなかにいる琢己を、お凛は見つけて反応したのだ。それを知らせなければならない。
が、言葉は出なかった。そしてそのまま、意識は暗い闇に沈んでいった。
裕子の体を借りたお凛は、一歩一歩、琢己へと歩み寄っていた。
「佐吉さん……こんなにあなたを憎んでるのに……こんなにも愛おしいの」
ナイフを下ろす様子はない。
琢己は距離をとるように、一歩づつ足を後ろへ運ぶ。
「琢己、逃げろ」
恭一の声は小刻みに震えていた。自分も逃げたいが、ここに佐々木を残していくわけにはいかないという義務感で踏みとどまっている。