ダーク&ノイズ
その琢己の前に、悠美が立ちふさがった。

「お凛さん、あなたがどんなに辛かったか……あたしは知ってます」

前をふさいだ悠美を見て、お凛はその足を止めた。

「どんな仕打ちを受けたか、どんなに無念だったか、わかります」

なぜ裕子にお凛が憑りついたのか、悠美にはその理由がわかりすぎるほどわかる。

同じ境遇にある者どうし、魂が共鳴したのだ。

二人は互いを求め合ったといえる。


「すごく辛かったんですよね」


その言葉は心のそこからの同情だ。それがお凛に伝わらないはずはなかった。

そのお凛が、ぽつりと洩らした。


「あたしは……何も悪くはない」


喉を焼かれ、唇がゆがんでいては、その声も獣のようだ。


「それなのに……なぜあたしが……こんな顔になったのか」


その言葉は悠美の胸にするどく突き刺さった。


「許せない……佐吉が」

「ちがう、琢己は──」


誤解を解こうとする悠美を、琢己がおしのけた。


「お凛さん、僕は佐吉じゃない」


お凛の顔がさらに悲哀に満ちた。

恐らく、自分でもわかっていたのだろう。その現実を突きつけられて、感情の捌け口が見つからなくなったのだ。


「でも、僕はあなたを傷つけません」


琢己は、ここまで恨みに魂をとらわれたお凛に、別の一面があることを見抜いたといえる。

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