ダーク&ノイズ
体に伝わる強い衝撃とともに、視界が黒く染まる。


が、不思議と痛みは感じなかった。


ゆっくりと目を開いた悠美の前に、琢己の顔がある。その瞳は優しく微笑んでいた。


「た……琢己」


とっさに悠美に覆いかぶさった琢己が、宇野の銃弾を止めていた。


「これで……良いんだ。お凛は……俺の魂が欲しかったんだな」


悠美は言葉を失っていた。

今まで琢己と付き合ってきた。好きだという感情が強かったのか弱かったのか、自分でもよくわからない。

それなりに腹を立てたり、怒られたりした。もちろん結婚なんてことはまったく考えていなかった。

しかし、琢己を喪うという現実を目の当たりにしたとき、それがかけがえの無いものだということに気づいたのだ。


「いやああああ!」


悠美は力が抜けてゆく琢己を抱きしめた。

この温もりが失われてしまうことを恐れた。何より琢己の優しい笑顔が二度と見られなくなることに、体を引き裂かれるほどの痛みを覚えた。


「死んじゃいや!」


どっと涙があふれた。

生命の火が消えかかった琢己が、細い声をふりしぼる。


「悲しむなよ……な」


琢己の顔は意外とさっぱりしたものだった。


「お願い、死なないで」

「なあ……死ぬって……思ったより大したものじゃない……みたい」


悠美は我を忘れて首を横に振る。


「ごめん……気のきいた言葉が……見つからない」


琢己の肩から力が抜けた。



「悠美……愛してる……」


そのまま琢己の体から離れてゆく魂が、悠美には見える。

迎えるように手を差し出したのはお凛だったが、その顔は美しい素顔に戻っていた。そして、ようやく幸せになれた笑顔がきらきらと輝いていた。

たとえ佐吉の魂を奪ったところで、そんな顔にはならなかっただろう。

琢己の優しさと人を愛す気持ちに、心が浄化されたのだ。

自分を犠牲にしてまでも人を思いやる気持ち。それを受けたお凛の魂が、憎悪から解放された瞬間だった。

そのお凛が琢己の手を引いた。

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