ダーク&ノイズ
二週間後。


病院の一室に駆け込んできた悠美は、目をあけている佐々木を見て声をあげた。


「良かった。本当に心配したんですよ」


ベッドの脇には恭一がすでに陣取っていた。


「佐々木さんがそう簡単に死ぬわけないだろ」

「だって……ずっと目を覚まさなかったし」


このところ、悠美の感情は起伏が激しい。このときも、思わずこぼれそうになる涙をこらえていた。

無理も無い。

たった一週間ほどの間に、友人も恋人も、自分のあやまちによって喪ってしまったのだから。


「琢己くんは、残念だったね」


その佐々木のなぐさめが、ついに悠美の落涙となった。



「でも大丈夫。琢己くんは最後に僕にこう言った」

琢己が最後に残したものがある。そう聞いて、悠美は涙にぬれた瞳をあげた。


「こんな死に方ができるのも幸せのうちです、とね」


佐々木は、旅立つ琢己の魂と接触していたのだ。


「それから谷川さんに伝言だ。人を許して生きていってくれと、他人でも、そして自分でも……と」


悠美は、驚きを覚えた。

普通の高校生と思っていた琢己が、まさかそんなことを言うとは、思ってもみなかったからだ。


「あいつはバカがつくほどのお人よしだからな」


恭一は寂しさを紛らわすために、わざと明るく言ってみた。悠美は泣きながら、無理やり笑ってみせた。


「人を呪わば穴ふたつ、と言ってね。呪った人間も結局その呪いからは逃れなれなくなる。人を許すことが出来なければ、人は幸せを感じることが出来なくなる。覚えておくんだな」



窓の外からはあぶら蝉がせわしなく鳴いている。夏休みは、もう中盤にさしかかっていた。




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