ダーク&ノイズ
「きゃあ!」

腰にまとわりつく正体不明のモノを振り払うように咄嗟に手をやるが、そこに触れるものは何もない。

一瞬状況を掴めない悠美は、たたらを踏んで周囲を見回す。

しかしそこには闇が広がっているだけだった。

心臓が喉から出かかる頃、それがポケットに忍ばせていた携帯のバイブレーションだったという事をようやく悟ると、胸を押さえながらそれを取り出した。

(夏美から?)

いつものデコレートされたメールとはうって変わり、小ざっぱりとしたメールが冷たく光っていた。


『今日は休んでごめん。明日必ず学校来てね。待ってるからさ』


何のことはないメールと普通は思うだろう。しかし疑心暗鬼にとらわれた心はその裏を見落とすことはない。

そのメールがとてつもない悪意を含んでいることを察知していた。

希里らのいじめは通常ならばまずシカトから始め、相手が精神的苦痛を受けていることを見極めてから実質的な攻撃に入ってゆく。

昨日から始まったにしては攻撃してくるのが性急すぎる。

(わかった……夏休みに入るからだ)

恐らく獲物を逃したくないという魂胆からだと、悠美はその結論に到達した。

携帯を握る手がじっとりと汗ばんでいた。


明日、自分に対する刑が執行されるのだろうか?


逃げられない蜘蛛の巣に掴まったようなイメージが、脳内を侵食してゆく。

また裕子の無残な姿が脳裏をよぎった。


(いやだ……いやだ……)


行くも恐怖、戻るも恐怖──


ならば、実害が約束されている後ろの道を戻るという選択は避けるしかなかった。

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