ダーク&ノイズ
ショッピングモールのエスカレーターは、店内をじっくり見せる効果を狙ってやたらとスピードが遅い。夏美はそれを駆け降りもせず、のんびりと機械の降下に任せていた。

その夏美の不審な挙動は、直後に起こった。

せわしなく周りを見渡し、ベルトにしがみついて身を屈める。バッグについた黄色のペンギンが揺れ、怯えるように見開いた目で手を見つめている。その手が大きく震えているのは、こんな画像でも確認できるほどだった。

その様子に川田と進藤は身を乗り出した。

「どうしたんですかね?」

進藤の問いに、川田は分からないという風に首を傾げる。


その時、突如画像がノイズに包まれた。


画像が歪み、チラつきがひどくなる。時折り画面が完全に途切れ、警備員が慌ててトラッキングのつまみを回した。

「あっ!」

すぐに正常に戻った画面。それを見てその場の全員が声を上げた。

川田は目を皿のようにして画面に食いつき、進藤はその肩越しに同じように目を丸くする。

「ちょ、ちょっと。戻して戻して!」

ほんのわずかな時間しかなかったはずだ。今にも一階につこうかという瞬間だった。しかし、すでに夏美の姿は忽然と消え、そこには持っていたはずのバッグが取り残されているだけとなっていた。

すぐにテープは巻き戻され、再び夏美の姿が映し出される。やはり画像の乱れは収まらない。今度はスロー再生を試みるが、夏美が姿を消す瞬間は捉えることが出来なかった。

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