星屑
ちょっ、ちょっと待て!


確かにこの学校は生徒数も多けりゃ校舎も多いし、全体なんてとてもじゃないが把握していないけど、でも、あたし達はそんなに近くにいたの?


じゃあこの人は、それを知っててあたしに近付いてきたの?


頭の中はパニックで、未だガラスケースに寄り掛かったままのあたしに彼は、歩を進めてくる。



「とりあえずおばちゃん、いつものね。」


作ったような笑顔、その後で視線を滑らせるようにこちらに向いたのは、あの日と同じ瞳だった。


目を細め、勇介はふっと笑う。



「なぁ、俺って本当に魔法使いだったのかな?」


そんなはずはないし、これはただの偶然だとは思うけど。


改めてこんな明るい場所で見た彼は、背が高く、やっぱり整った顔とふわふわとした喋り口調を持つ。


なのにあたしは、キツネにつままれたような顔で、今、一体何が起こっているのかも把握しきれないでいた。



「おはよう、魔法使いさん。」


気付けば言葉は口をついていた。


なのにそれを発した本人であるあたしに、意識はなかった。


勇介は一瞬瞳を大きくして、でもすぐにまた、柔らかく笑う。



「面白いね、奈々は。」


あぁ、あたし達ってヤッたんだっけ?


今更になってそんな意識が頭の端を通り過ぎ、気付けばあたしはため息を零しながら、こめかみを押さえていた。


人間、脳みその許容量を超えると、思考がもうめちゃくちゃだ。


勇介はそんなあたしをよそに、楽しそうな顔でチョコチップメロンパンを受け取っている。


とりあえず落ち着けよ、あたし。

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