月夜の送り舟
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ようやく仕事を終えたサイは家にも帰らず、じいっと河面を眺めていました。
サイは河下り舟の舟頭です。
十五で舟に乗り始めてから、かれこれ四十年近くになります。
ずっと河面を眺めて暮らしてきました。
この河のことなら、たいがい知っているつもりでした。
やけに河面が揺れているなとは思っていました。
なんぞ、でかい魚でもおるんじゃろ、ぐらいにすてていたのです。
ところが、姿を現したのは魚なんかじゃありません。
青緑色のヌルヌルした生き物でした。