月夜の送り舟
花嫁の待つ河原に舟を寄せると、サイは御酒を片手に舟を降りました。
風はありませんが、昼間の熱気が嘘のような涼しい夜です。
出迎えたカッパたちの間を縫うようにサイは花嫁の前まで歩きます。
そして、花嫁の手をささえ、水際まで進みました。
「かしこみ、かしこみ。河の神さまよ。この娘が嫁に行くことになりました。今は亡きカッパの娘です。わしの大切な友達のひとり娘です。代わりに送り口上を申し上げます」
サイは咳払いをひとつして、河に向かって声を張り上げました。
『かわのなかされたましいよ よにかけたるおもいはふかし いろめくいちふ はなよりふかし かえしてはならん かえしてはならん』
河原はしーんと静まりかえったままです。
サイは杯を娘子に渡し、それに御酒を注ぎました。
娘子はためらいながらも口に運び、こくりと飲み込みました。
そして、恥ずかしそうにサイの顔をみました。
「それでは参りましょう」
サイはひょいと娘子を抱えあげ、そっと舟に乗せると揺れないように気をつけながらサイも乗り込みました。