風鈴
石段を見下ろすと、そこには夜の闇が広がっている。
すぐ後ろの煌きが夢の世界だと言わんばかりの、真っ暗な闇。
このまま見ていたら吸い込まれてしまいそうだと、紫は思った。
そしてふいに、房子の引越しが脳裏に浮かんで、言いようのない気持ちに襲われた。
(…ひとりぼっちになってしまう)
全部嘘だったらいいのに、と紫は思った。
すると、そんな紫の気持ちを推し量るように、市哉が、
「浮かない顔をしてるね」
と言った。