運命の扉
部屋着で近所に出歩くのはもう慣れっこ。
学校の子は電車かバス通学がほとんどで、スーパーは学校の反対側にあるからめったに遭遇することもない。
春の風を体で感じながらスーパーでお使いを済ました。
「ただいま〜。」
「ありがとう!」
お母さんが玄関まで出迎えてくれて、買い出してきたものを手渡す。
「はい。お腹すいた〜。」
お昼ご飯も食べてないし、あたしの胃は音を発てて空腹を訴え始めている。
「もうすぐ出来るからね。リビングで待っててちょうだい。」
手を洗ってリビングへ行くと、莉紗がソファーに座りながら本を読んでいた。
「何読んでるの?」
隣に腰掛けながら、背表紙を覗き込んで題名を見る。
『初恋- ハツコイ -』
「莉紗、こんなの読んでるの!?」
思わず大きな声を出してしまった。
「へっ?あっ……」
それまで真剣に読んでいた本を急いで閉じられてしまう。
「珍しいね、恋愛小説なんて。」
そう。
莉紗が恋愛小説を読むなんて、かなり珍しい。
普段は伊坂幸太郎とか、ミステリー系の頭を使って読み進める作品が多い。
「…恥ずかしい。」
顔を赤らめて下を俯く姿は、とても可愛らしい。
双子だけど、莉紗はこういうところが守りたくなるというか、大切にしたくなる。
明るいのだけが取り柄で素直じゃないあたし。
女の子らしくて守りたくなる莉紗。
男の人なら、大抵、後者を選ぶはず。
なーんて、くだらないことを考えてみる。
「莉奈、莉紗〜ご飯出来たわよ。」
お母さんに呼ばれ、あたしたちはダイニングへ移動する。