運命の扉

「やろっか?」

敬ちゃんは立ちすくむあたしの肩に手を置いて、優しく声をかけてくれた。

優しくされたら泣いちゃうよ……
でも…迷惑はかけられない。

「うん。」

涙を堪えて笑うと、急に腕を引き寄せられた。

目の前にあるのは……敬ちゃんの大きな胸。
鍛えた腕があたしを包み込んでいる。

「…ごめん……さっきの…聞いちゃった。」

胸の奥の大きな傷がチクっとした。

「泣きたいなら泣いた方がいい。」

そう言って、抱きしめる腕に少し力を入れる。

傷口に消毒をすると、痛みが走る。
あたしの心は今、まさにその状態。

血が滲んだ傷口に敬ちゃんの消毒という優しさが触れて、涙が止まらない。
いったいこの涙はどこから湧いてくるのだろう。
渇きを知らないようだ。

「ごめんね……。」

「謝んなくていいよ。こっちこそ…盗み聞きみたいなことしてごめん。」

なんでこんなに温かいんだろう。
凄く落ち着く…。


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