運命の扉
――――――‥
数分。
いや何十分という時間だったかもしれない。

敬ちゃんは黙って、あたしの涙が止まるまで抱きしめていてくれた。

「もう大丈夫?」
「うん……ありがとう。」
「急いで仕事しようか。向井先生、待ってるだろうし。」

全く手が付いていないプリントの山。
面倒臭そうな作業も取りかかってみると、意外と早く終わった。

2人並んで職員室まで肩を並べる。

ただ黙って歩いているだけなのに、敬ちゃんの優しさが伝わってくる。

職員室に入り、向井先生にプリントを渡した。
「もう〜、遅いじゃない。そんなに時間かかる作業だった?」
「内村が急に用事出来ちゃったみたいで。井上さんが、俺の部活終わるまで、作業しながら待っててくれたんですよ。だから遅くなっちゃった。」

ニーっと得意のスマイルで、言い訳。
さすがの先生も、これには何も言えないようだ。

「そうなの?じゃぁ、仕方ないわね。今回だけよ。内村くんにも任された仕事は最後までやるように伝えてちょうだい。」
「わかりましたー!じゃ、また明日。」
「気をつけて帰りなさいよ。」
「はーい。」

軽くお辞儀をして職員室から出た。

< 56 / 70 >

この作品をシェア

pagetop