鬼憑き
『お二人とも、到着しましたか?』
「あぁ」
廃屋から2・300mほど離れた路地の一つに入り込み、二人はようやく無線をつないだ。しばらくして多少の雑音と一緒にシンファの声が送られてきた
「それで、結局今回のターゲットってどんな奴なんだよ」
普段なら事前情報をもとに動くところが、急な任務ということもあって相手の情報がわからないまま現場に来てしまっている二人。少し呆れたような響きを含んだ武人の問いに、答えづらそうにしてシンファの声が続く
『それが・・確認してみたんですけど、前回お二人が追っていた鬼みたいなんですよ』
「・・・どういうことだ」
前回の仕事は確かに鬼一体の討伐で、二人は失敗をして鬼を逃がしてしまっていたから特に不思議はない。引き続いて担当しているシンファがそういうなら十中八九そうなのだろうが、
「ちょっと待てよ!あいつおもっきし戦闘タイプじゃねぇか。何をどうやったら間違えんだ」
レティの話を信じるなら、今回は“戦闘能力を有していないと思われた”鬼が対象であるはずだ。外見などと違って変わるはずのない能力は鬼を見分ける目安ともなる。それが違う時点で、同一と見るにはかなり無理があった
『私にだってよくわからないんです。報告内容も能力以外は全部同じでしたし・・』
返すシンファの声にも疑問が色濃く浮かんでいる
「・・場所に間違いは?」
『え、と・・・大丈夫、間違いありません』
「って、ちょっと待てよ秀樹!」
シンファから聞いてすぐに行こうとする秀樹に武人から抗議の声が上がる。秀樹は意味がわからないという顔をしつつも、とりあえず進めようとしていた足は止めた
「わかんねぇことだらけだってのに、どうするつもりだよ」
「鬼の討伐。もともとそれしか知らされてなかったんだ。今更やることは変わらないだろ」
「そりゃ、そうだろうけど・・・」
言いよどんだ武人から視線をはずし、秀樹は持ってきている装備を準備しだした
「・・あ~も~!わかったわかった。さっさと行ってこようぜ」
諦めたように盛大な溜息をひとつついて、武人も準備に入った