鬼憑き
目指す廃屋から10mほどの間は障害物も何もなく、その代わりに襲われるような気配も感じられない

「これから潜入する。通信回復は1時間後にしてくれ」

『了解しました。お二人とも気をつけてくださいね』

軽い電子音を最後にシンファとの通信を切り、気を入れなおした二人は暗い入口の両脇へ構える

「さて、と。今回は別れないほうがよさそうだな?」

「当り前だろ」

胸元にライフルをひきつけている秀樹にグローブを馴染ませるように掌を動かす武人

「舐めてかかるな」

「わかってるっつーの」

最後の会話を交わし、多少の緊迫した雰囲気をまとって二人は建物に入っていった


















外からの見た目はもちろんのことながら、廃屋ともなれば当然中も普通の建物のようにはいかない。埃を巻き上げる音が響く広い空間は、どこかから漏れ込む光でかすんで見えている。現実味の薄い中で使い古された機械が無造作に横たわっている。秀樹と武人は互いに一定距離を保ちつつ死角を作らないようにして移動しながら、潜んでいるはずの敵の気配を探ろうとする。が、何か生き物がいるだろう形跡すら見つからないまま、時間だけが過ぎていく

「・・本当にここなのか?」

ぽつりとつぶやいた言葉には疲れの色が見える

「・・・・・・合ってるんじゃないか?」

変わらない様子でそう答えた秀樹の視線の先、数m離れた場所には不自然に無くなっている埃と擦りつけたような黒い痕。白く色をなくした人の名残と渇いた水溜まりが置き去りにされていた

「昨日の奴らの代表クン、か」

引きちぎられたような腕――肘から手首までしか残っていない――を拾い上げると、水分を失っている血が床の上に新しい模様を作った。薄手の布で包んだそれを腰についたポーチへと半ば無理やりに押し込めると、武人は小さく息を吐いた

「あとは鬼憑きの退治だっけ?」

「調査もだろう。忘れるな馬鹿」

「悪かったな馬鹿でっ!って・・どうした?」

急に明後日の方へ視線を向けたかと思うと、


「飛べっ!!」


秀樹の声と共に後ろへ飛びのいた二人が先ほどまでいた床は、瓦礫を飛び散らして抉れていた
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