鬼憑き
四章
二人が研究所に戻ったのは、まだ太陽が空にある間だった。研究所に着いてすぐに二人は報告のためにレティの元へと向かった。途中すれ違う研究者たちは誰も忙しそうで、いつもは戦闘員に近付こうともしない奴らも、すぐそばを通り抜けていく。レティのところにつくと、いつもは乗り気でない武人が、安心したように息をついた


「・・帰ったか。どうだった?」

「ばっちりッスよ。ちゃ~んと任務は終わらせてきました」

レティの言葉に、笑顔で答える武人。そのまま報告に移る武人の横で、秀樹はずっと表情を曇らせたままだった

「どうしたんだよ?さっきから恐ぇ顔して」

報告が一段落したところで、武人が秀樹の顔をのぞき込むようにして聞いた

「・・・何か気になることでもあったか?」

レティも声をかければ、少しの間を空けて秀樹が口を開いた

「・・おかしいだろ」

「・・・・おかしいって?」

「誰が鬼憑き発見の報告をした?」

頭の回りに疑問符が飛んでいる武人。秀樹の視線は真っ直ぐにレティへと注がれている。先に揺らいだのは、レティだった。

「彼等は戻って来なかった。お前達が見つけた隊員だと考えられている」

「考えられているって・・そんなアバウトな」

「偽物からか」

そう言われ、レティは思わず笑った。

「・・相変わらず鋭い奴だ。恐らく通信より前にやられていたのだろうと踏んでいるが、スパイなどによる情報操作の可能性も否めない」

「ちょ、ちょっと待てよ。どっからそういう話になってんだよ?」

納得する秀樹に置いて行かれている武人。ようやく秀樹はレティから視線を外した。

「お前、今まで鬼憑き見間違えたことあるか?」

「は?や、たぶんないんじゃねぇか?」

「なんでそう言える?」

「なんでって、んなもん見てりゃ・・あ、」

武人はここまで来てはっとした表情を浮かべた。鬼憑きだとわかった時点で、能力の見分けは難しいことではないと気づいた。

「あいつらは顔だったろ」

鬼憑きは人間ととてもよく似た外見と知能を持っている。しかし一つだけ、外見特徴で見分けることができた。

「紋様の位置なんて見間違えないな、確かに」

鬼憑き特有の能力を使うとき、肌の特定の場所に様々な紋様が浮かび上がる。戦闘タイプなら顔、それ以外なら身体へと出てきた。

「現段階では研究班しか知らない、不確定な情報だからな。だが、それほどわかっているなら放ってはおけん」

レティはそう言って、机に設置されている受話器を取り上げた。しばらくすると受話器の向こうからノイズがかった声が聞こえてくる

「カロンを呼べ。今すぐだ。・・・・・あぁ、それでいい。以上だ」

簡単に命だけを伝えると、すぐに受話器を置いた。しばらくして、控えめに扉をたたく音が聞こえた。

「入れ」

レティが返事をするとゆっくりと扉が開き、カロンが顔を覗かせた。かなり緊張しているようだが、秀樹と武人が目にはいると、少し安心したようだった

「レティ総司令官、お呼びでしょうか」

「あぁ、頼みがあってな。お前等三人とも」

三人がレティに視線を集める。

「武人、それにカロン。お前たち二人は悪いが盗聴やスパイの可能性を調べろ。その間、秀樹は単独任務に出向いてもらう」

「なっ!ち、ちょっと待てよ!単独任務なんて聞いたことねーぞ!?」

「安心しろ。元々お前が入るまでこいつは一人で動いていたんだ。それに、カロンを守る者は必要だろう?」

即座にレティに食いついた武人だったが、ものの見事にあしらわれてしまい、言葉に詰まる。秀樹はさして目立った反応もせず静かだった

「あの・・総司令官、具体的に俺は何をすれば・・?」

「とりあえずは武人についていけ。あと、・・そうだな、こいつ等なんかに聞いて実際に鬼憑きの知識を深めるのもいい。何ならこいつ等の任務についていくことも許可する。そうして得た知識でしか見えない物もある」

言われたことを頭に入れているカロンの後ろで、不機嫌を露わにしている武人だが、うまく言い返す言葉が見つからないのか、黙り込んでいる。

「言うことはそれだけだ。もう行け」

一方的に会話を終えたレティは机に向き直り、執務に戻っている。武人は半ばカロンを引きずるようにして出ていき、秀樹が追うように後に続いた。
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