鬼憑き
2ブロックーー6km程度ーーをこんなにも遠いと感じることが秀樹にはなかった。近づくにつれて足取りが重くなっていき、嫌な汗がその顔を伝っていく。引きずりながら歩を進めて、それでも目的地にはたどり着いた。軽く深呼吸をして、秀樹はもう壊れている自動ドアを無理やり開いた。


秀樹自身は初めて来る場所だった。錆びた金属同士が擦れる音と同時に店内に光が差し込んだ。固いドアは開かれた様子もなく、それでもドアから数mの範囲には小さな足跡や細いタイヤ痕が幾つも重なっている。だいぶ遠くから袋の擦れるような音が聞こえてくるところを見ても、子供たちには彼ら専用の入り口でもあるようだ。秀樹は足音を消して近づいていく。高めの声が話しているのが聞こえてきた。壁一枚隔てた日用品売り場で子供たちの会話内容を注意深く聞き取り始めた。

「違うって。辛いのはまだいっぱいあったよぅ」

「そんなことないよ。だって昨日の夜ご飯辛かったもん」

「ほら、喧嘩ばっかりしてないで。まだ全部揃ってないんだから、先に決めてきたもの集めてちょうだい」

「もうなかったよ~」

「このお店空っぽになってきたよね~」

秀樹が今まで以上に大きく息を吸い込んで、そのまま止める。1、2、3、4、5と同時に体を預けていた右側のアルミ戸にショットガンを打ち込んだ。発砲音が広い店内に響き渡り、音が消えた。破けたドアから差し込む光。その向こうに、秀樹は確かにうずくまる人影を見つけた。もう役に立っていない鍵を開けて扉を開く。僅か数歩離れた先にいるのは、秀樹もよく見知っている人物だった。ゆっくりと態勢を立て直した腹部は、破けてはいたが血は見られない。立ち上がってとる構えは、むしろ懐かしく感じられた。

「武人・・」


目の前にいるかつての相棒に、昔の優しい眼差しは無くなっていた。
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