最大公約数
「こんばんは・・・」


ぺこりと頭を下げると、先生はにっこり微笑んだ。


「松田っていいます」


松田さん、と心の中で復唱し、姫野です、と言っておく。


「松田先生は、東大の理3にいたんだけど、この春に慶応の医学部に入りなおしたんだよ。数学が大好きだから、何でも聞くといい」


塾長がそう言うので、はあ、と相槌を打っておく。

数学が大好きって言われると、なんだか憎めない。あたしも数学は大好きだ。


「数学オリンピックにも出たくらいだからね、きっと姫野さんにも合うと思うよ」


そこまで数学が好きなわけではないけれど、そんな先生なら、きっともっと数学が好きになれるだろう。


「じゃあ、授業しようか」


先生はにっこりと微笑んで、個室に向かった。

あたしは素直に先生についていく。

塾長が、次こそは頑張ってくれ、なんて背中に向かって言うから、あたしはどうでしょ、と肩をすくめた。

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