白いユキ



「いらっしゃい…霞」


父の優しい声が耳に痛い。


─…カスミ─あたしは、消え入りそうなこの名前がずっと好きになれないでいた。


名前を呼ばれるたびに、あたしは、自分が消えてなくなるんじゃないかと錯覚に陥ったから─



だから、あたしは、名前を捨てた。



今の、あたしは、ユキだ─
できることなら、父や、母にもそう、呼んでほしい。



だけどそれは、叶わない願いだ。






< 30 / 215 >

この作品をシェア

pagetop