白いユキ



カウンターにただ、俯いて座る女の人。



あたしに、かけられた名前がユキだから、
きっと、気づいていない。



─このまま、店を出よう…あたしには、まだ、無理だ。



そう思って立ち上がろうとするのに、体が動かない。



「どうした?ユキ?」



多分、あたしはきっと今、ひどい顔をしているんだろう…



マスターの心配そうな声に、女の人があたしを見た。



「かすみ?」



ガツンと体を殴られたように思った。


その声にあたしの体は、ガタガタとふるえはじめた。



─見るな!!横を向くな!!

あたしの中で、警告音みたいに、心臓がドクドクと激しく動き出す。



ふるえながら、ピクリとも動けない、あたしの耳に、女の人が近づいて来る足音がして…


血の気が引いた。



あたしは、座っていられなくなり、イスから、ズルッと滑り落ちた…



「かすみッ!?」



─もう、言わないで…その声で、その名前は…
まだ、受け止められない……



あたしは、カウンターの下に、倒れ込み、そのまま、…意識をうしなった。



「かすみ!!」




耳に、母の声が響いていた。







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