ジャス

 町の中心地から少し離れた長屋に、新太郎の住みかはあった。


 新太郎は新選組当時、“特別部隊”に在していた。

 それは隊を離れ、影で行動するいわば隠密行動だったらしい。

 新太郎は函館戦争に破れた後、新政府に追撃されつつ各地を転戦しながら、数ヵ月前この地に辿り着いたそうだった。


 二人はいろりに対面で座っていた。

「これから、どうする気だ? 」
 ジャスが訊ねる。

「決まってるだろう、“明治政府”を叩き潰す」
 新太郎が静かに言った。

「明治政府を? 」

「そうだ。あのくだらない政府を叩き潰す」
 新太郎は内なる闘志を見せる。

「くだらない…確かに歴史なんて物はそうかも知れんな」

「俺はあの英雄を気取っている“西郷”達を叩き潰すまでは引かない」
 既に新太郎の心には、復讐の二文字しか感じ取れなかった。

「…お前は変わったな。昔はもっと輝いてた気がする」
 ジャスは新太郎を見据える。

 いろりに掛けた鉄瓶から湯気が立ち昇る。

「…俺は、何も変わっていない…ただ歴史が、時代が変わっただけだ。…変わったと言えば…正義、貴様は昔と何も変わらんな」
 新太郎もジャスを見据える。

 ジャスはその視線を逸らし横を向いた。

「そうか? 自分では分からんが」
 そう言って会話をはぐらかす。
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