ジャス

「あの頃のお前は邪気など無かった。俺は考えすぎだと思い静かに見守った。今でもそう思いたい。…何が新太郎を変えた?」
 ジャスは刀の柄に手を差し伸べる。

 不意に、吹雪が彩音に向かい吹き出した。

「…これだけは信じて…私とて、新太郎をあのような姿になどしたくなかった。だが新太郎の精神は、あの戦(いくさ)によってボロボロにされた。もはや新太郎を止める術などないのよ。」
 吹雪の中、彩音が言った。

「ならば、何故!」
 ジャスが叫ぶ。吹雪が掻き消えた!

 そこに彩音の姿は無い。ジャス一人が佇(たたず)んでいた。

「彩音…お前の目的はいったい…信じて良いのか?」
 ジャスは目蓋(まぶた)を閉じる。同時に黒く染め抜いた髪の毛が“銀髪”に変わった。




 その後ジャスは新太郎の長屋へ向かった。

 だがそこに新太郎の姿も彩音の姿も無かった。



 それから一ヵ月余りが過ぎる。

 町は本格的な冬の季節に突入していた。

 新太郎達の行方はまだ掴めなかった。だが町には今までに無い空気が漂っていた。
< 25 / 79 >

この作品をシェア

pagetop