ジャス
 夕闇を迎えた高台のホテル。その一室に新太郎と彩音の姿があった。

「…あいつはまだ俺達を探しているみたいだな。…皮肉だな、あいつに追われる羽目になるとは…」
 新太郎が、遠くを見据える。

「新太郎…どうする気。」
 不安げに訊ねる彩音。

 新太郎は笑みを浮かべた。
「奴が邪魔するようなら俺が切り捨ててやる。俺は常々、奴と刄(やいば)を交えたいと思っていた。」

「いけない…、今はまだ時期ではないわ。」
 彩音が諫(いさ)める。新太郎とジャスが刄を交えれば、負けるのは新太郎だと分かっていたからだ。

「分かってる、冗談だ。志し半ばで砕け散る訳にはいかんからな。」

「そうよ、無駄な戦いは避けるが上策。」

「くっくく…しかし、正義が“あめりか人”であったとはな。…“ジャス”か…なる程、確かに奴にはシックリくる。」
 新太郎が微笑んだ。

 彩音は、新太郎にジャスの正体をアメリカ人だと教えていた。宇宙人だと言っても、理解出来ぬと感じたからだった。

 無論、彩音の正体も気付かれる所以(ゆえん)は無かった。

 彩音は、新太郎に全てを伝えてはいなかった。
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