ジャス
「彩音、死ぬな!」
新太郎は大粒の涙を流し、彩音の体を抱きしめた。
やんでいた雪が再び降りだす。一際大きなボタン雪だった。
彩音の体は徐々に冷たくなっていく。
「寒いのか?…彩音!?」
「ば…か…ね。…あの、北の…大地の…寒さに比べれば…暖かい…方でしょ。」
彩音が微笑んだ。
「…そうだな…俺達、あの蝦夷(えぞ)の厳しい寒さを堪えてきたんだもんな。」
新太郎も笑い返した。
「半年前…逃亡の…末…辿り着いたこの地…私は好きだった…苦々しい思いは…さざ波が消してくれた。…侘しさは…町の明かりが癒してくれた。…何よりあなたの…笑い顔が…全てを包んでくれた。…これからは…決して笑顔を捨てないで。」
「分かった…分かった彩音。…俺はもう野望は捨てる。平和に暮らそう…」
新太郎が語り掛ける。
「なあ、彩音。夏になったら海岸を二人で歩こう。共に手を取って…なあ彩音。」
だが彩音の身は微動だにしなかった。
「…あやねーっ!!」
新太郎の叫びが夜空に響いた。
降り続く大粒の雪が全てを覆い尽くしていた。