ジャス

「…風牙様…」
 ビブバは恐れで震える。

 黒い闇の一部が、祭壇の中央部に集まり始める。

「…ビブバよ。何をその様に震える?」
 静かに響く様な声が聞こえた。ビブバは恐る恐る顔をあげる。

 そこには巨大な暗黒の狼が佇んでいた。

「風牙様…」

「そこにいるのがリバティの妹アロマか…」
 風牙は棺を見据えた。

「はい。」
 ビブバが答えた。その震えは一向に止まらない。風牙以外の別の何かに怯(おび)えている様にも感じる。

「…いつまで震えているのだ…おかしな奴だ。」
 訝(いぶか)しがる風牙。

「まあよい、早くその生け贄を捧げるのだ。“王家の一族”の生き血は、ワシの命を千年は延命させる。さあ早く。」
 風牙が煽(あお)る。だがビブバは顔を伏せたまま動かない。

「…どうした?…ええい、焦れったい奴だ。」
 堪らず風牙が棺に手を伸ばした。
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